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仙台地方裁判所 昭和32年(ヨ)203号 決定

申請人 秋保電気鉄道株式会社

被申請人 秋保電鉄労働組合

主文

一、被申請人組合は、申請人会社がなす電気鉄道営業及び一般乗合旅客自動車運送営業その他附随業務を、左記(1)(2)(3)の行為、その他実力行為をもつて妨害してはならない。

(1)  申請人会社が運行する電車、バス、トラックから運転手、乗客を引きずり下す等その運転を妨げる行為。

(2)  申請人会社の電気鉄道軌道上に材木、枕木、石を並べ又は右軌道上においてスクラムを組み若しくは坐臥する等して電車の運行を妨げる行為。

(3)  一般乗客が仙台市長町字大道西九番地本社待合室、出札、改札口に出入することを妨害する行為。

二、申請人会社の委任する仙台地方裁判所執行吏は前項の趣旨を公示するため、適当な方法をとることができる。

(注、保証金十万円)

(裁判官 佐藤幸太郎)

【参考資料】

仮処分命令申請

申請人 秋保電気鉄道株式会社

被申請人 秋保電気鉄道株式会社労働組合

立入禁止及妨害排除仮処分命令申請事件

申請の趣旨

第一、被申請人組合は

(一) 申請人秋保電気鉄道株式会社本店同事務室、社長室、同会社車庫、貨物倉庫、社宅等及別紙第一目録青写真の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)(ヌ)(ル)(ヲ)(ワ)(カ)(ヨ)(タ)(レ)(イ)の各点を結ぶ朱線内長町停車場構内竝に左記各停車場内及別紙第二目録乃至第十一目録青写真の朱線を以つて囲む各停車場構内に立入つてはならない。

左記

(1) 仙台市富沢字原四五

西多賀停車場(別紙第二目録青写真の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)(ヌ)(イ)の各点を結ぶ朱線内)

(2) 仙台市鈎取字町六二ノ三

鈎取停車場(別紙第三目録青写真の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)の各点を結ぶ朱線内)

(3) 仙台市鈎取上野山一〇

月ケ丘停車場(別紙第四目録青写真の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)(ヌ)(ル)(ヲ)(ワ)(イ)の各点を結ぶ朱線内)

(4) 仙台市山田一の一

旗立停車場(別紙第五目録青写真の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(イ)の各点を結ぶ朱線内)

(5) 仙台市茂庭字生出前二四

大白山停車場(別紙第六目録青写真の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(イ)の各点を結ぶ朱線内)

(6) 仙台市茂庭字生出前三七

萩の台停車場(別紙第七目録青写真の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(イ)の各点を結ぶ朱線内)

(7) 仙台市茂庭字門野六

茂庭停車場(別紙第八目録青写真の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)(ヌ)(ル)(ヲ)(ワ)(カ)(ヨ)(タ)(イ)の各点を結ぶ朱線内)

(8) 仙台市茂庭合の沢南五〇の三

北赤石停車場(別紙第九目録青写真の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)の各点を結ぶ朱線内)

(9) 仙台市茂庭字中谷地山一六の二

磊々峡停車場(別紙第十目録青写真の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)の各点を結ぶ朱線内)

(10) 名取郡秋保村湯元字枇杷原二〇

秋保温泉停車場(別紙第十一目録青写真の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)及(い)(ろ)(は)(に)(ほ)(へ)(い)(社宅倉庫)の各点を結ぶ朱線内)

(二) 仙台市長町字宮田一九番所在申請人秋保電気鉄道株式会社泉崎変電所内及別紙第十二目録青写真の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の各点を結ぶ朱線内変電所構内に立入つてはならない。

(三) 申請人は仙台市長町字山根街道南四七の二八所在申請人会社の経営する一般乗合旅客自動車運送事業の為めにする自動車々庫内及別紙第十三目録青写真(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(イ)を結ぶ朱線内に立入つてはならない。

第二、被申請人組合は申請人会社の使用者非組合員が為す申請人の電気鉄道営業竝に一般乗合旅客自動車運送事業の業務行為及会社経営に関する一切の行為を妨害してはならない。

との御決定を求むる。

申請の理由

一、申請人秋保電気鉄道株式会社は曩に軌道法に基いていたが、昭和十九年七月二十五日内閣総理大臣の公益事業指定の下に地方鉄道法に因る鉄道事業を経営し及申請人会社は昭和六年二月十八日道路運送法に基く一般乗合旅客自動車運送事業を経営し、同十六年九月以降社会状勢に因り一旦休止し同二十五年四月十九日より再び事業経営に及び今日に至つている。

二、申請人会社の電鉄利用者は一日約四千人、バス利用者は一日約一万二千人で仙台秋保間及其の他バス路線居住者に最大の便益を与えつつある。

之れが寸時と雖も運行を停止又は遅発する等ダイヤの乱れは之れを利用する通勤者、学生々徒及一般人に対し極めて大なる不便と苦痛を与えることになり、公益事業経営者として公衆の日常生活に事欠くことと相成り申訳ない事柄である。

三、申請人会社は公益事業の本質に省み一意事業の隆盛と之に従事する従業員に対し其の待遇等に関し能う限りの力を尽して来た心算である。

四、ところが被申請人組合は、昭和三十二年四月以降の賃金値上げ及同年度夏期手当竝に申請人会社が業務成績不良の故を以つて正規の手続により解職した高山たか子は不当な解雇で不当労働行為なりと云つて労働争議を起し同年六月四日第一回団体交渉より同年八月九日迄八回の団体交渉をした。

被申請人組合は年令給、勤続給を含む一人平均九二〇円の賃金値上を要求したのに対し会社側は年令給、勤続給については四月分より協定通り増額する旨回答し賃金値上げについてはバス運賃値上後の収支を研究の上でないと具体的回答は困難で現在の経理内容から全く値上げの資源は支出不可能の旨回答した、尚第三回交渉に於て会社は電力料の値上げ自動車燃料費の値上げの支出増が年間四〇〇万円以上に及ぶので昨年以来の困窮した経理内容について実情を述べた、而して賃金値上げの団交は終に解決を見なかつた。

被申請人組合の夏期手当の要求額は基準賃金一ケ月分であるに対し会社側は最近の鉄道収入の減収について説明し且鉄道改造計画等の説明をなし、更に強く従業員の耐乏を要請し且金融引締の影響等で昨年より更に苦しく全然見込が立たないが不動産処理による財源より夏期手当として二、五〇〇円を給する旨最後の回答をなしたに対し組合側は頑として納得出来ずと主張し終に前後通じて八回の団交に於て之が解決を見るに至らなかつたのである。

申請人としては以上の如く誠意を披露し争議の自主的解決する様特に努力し続けたのであるが、被申請人組合は突如昭和三十二年八月十三日秋電労発第七七号争議行為に関する通知(労働関係調整法第三十七条に基く)を宮城県知事及地方労働委員会宛発送し同盟罷業等に依り申請人会社の鉄道、自動車等の輸送停止をはじめあらゆる形の争議行為を同年八月二十五日より為し争議に突入することになつた。

五、斯くては申請人会社の鉄道、バス利用者に極めて大なる不便と不安を与える結果を招来することになるので申請人会社としては非組合員其の他を動員して斯る緊急な場合に処する段取りをつけ公衆の日常生活に事欠くことのない様念慮しているが然し争議行為の激化に伴い不慮の事態の発生の虞が多分にある。

六、即ち申請人会社としては昭和二十七年四月十八日労働争議を一回経験した丈けであるが其の際に於ける労働組合員等(百二十名)は同日午前零時より二十四時間ストに入り電車バスの運転を拒否し争議行為を為した外申請会社の非組合員の会社経営に関する業務行為を左記の通り非合法な行為により阻害又は妨害した。

(一) 被申請人組合は電車、バス、トラックの周囲にスクラムを組み電車バス等の運行を阻害し輸送を妨害した。

(二) 四月十八日午後には電車バス等の立往生を余儀なくされ運行不能となつた。

(三) 運行中のバス、トラックに乗り込み運転手を引きずり下し、

(四) 運行中のバス、トラックの前方にスクラムを組んで運行不能ならしめ

(五) 軌道上に材木、枕木、石などをならべ、及線路上にスクラムを組み或は線路上に坐臥する等往来妨害の非合法行為を為し

(六) バス、トラックの運転台に乗り込み運転を妨害し、又運転台の前面窓に立塞るなど自動車運転上の危険状態を醸し、

(七) 乗車中の乗客に対しバスから引きずり下し

等々争議行為を逸脱した非合法的手段を敢て弄した事実がある。

七、来る八月二十五日より二十四時間ストに突入する被申請人組合は前例にも増して争議行為を逸脱した非合法手段を取ることは其の虞が多分である。

仍て申請人は斯る場合に処し公益事業たるの本旨に則り公衆の日常生活に支障なきを期する為前叙の如く被申請人組合員に非ざる人々を動員し電車竝に一般乗合旅客自動車運輸事業の稍正常なる運行を確保すべく努力して居る。

就ては申請の趣旨記載の個所を維持することが極めて緊要欠くべからざるものである。

被申請人組合の争議行為はあくまで合法的手段に依るべきで争議行為に名を藉りて之を逸脱する非合法的手段による行為は許さるべきではない。

八、ところが被申請人組合は争議行為に於て前例にもある如き非合法行為に出ずる虞が多分にあり斯くては申請人は遂に公益事業経営不可能の状態に陥る公算大なるにつき本案提起前の執行保全の方法として前記申請の趣旨記載の仮処分を求むる次第である。

事は緊急を要する事態なるにつき速かなる御決定を乞う次第である。

疎明方法〈省略〉

昭和三十二年八月二十二日

右申請代理人 林昌司

仙台地方裁判所民事部 御中

(別紙省略)

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